映画「玄牝」

映画「玄牝」

玄牝

季節がめぐるように、いのちはめぐる―
ぼんやりとした明かりが灯る畳の部屋。
ここは母親の胎内に近い温度と湿度、そして光が保たれている。家族に見守られ、横たわる妊婦のそばでは、ひとりの医師が静かにその時を待っている。
やがて新たな命と呼応するように、彼女は声をあげる――「きもちいい」「あったかい」「ありがとう」。
愛知県岡崎市にある吉村医院。
木々がこんもりと生い茂る森の中にあるこの産科医院には、「自然に子を産みたい」と願う妊婦たちが、全国からやって来る。
「不安はお産の大敵。ゴロゴロ、ビクビク、パクパクしないこと」。
こう繰り返すのは同院の院長で、これまで2万例以上のお産に立ち会ってきた吉村正先生だ。
お産は痛くて苦しいものだと思い続けていた人、初めての出産で経験した医療行為が辛い記憶になってしまった人……。
それぞれの事情や想いを抱えながらも、臨月が近づくにつれ、彼女たちはいきいきと輝きはじめる。
その様子を見守る家族や助産師の想い、そして、生まれてくる命だけでなく、生まれることなく消えてゆく命とも向き合う吉村先生の葛藤――現代に生きる私たちの強さと脆さ、喜びと悲しみ、怒りや平安がないまぜとなって、ひとつに結ばれていく。

玄牝

あるがままに命と向き合う女たちの、比類なき美しさ
映画作家・河瀬直美の原点にして、新境地を切り拓くドキュメンタリー。
お産という根源的で本能的な営みを、季節ごとに表情をかえる自然の中で見つめたのは、『萌の朱雀』『殯の森』の河瀨直美。
2004年に長男を出産したことを振り返って「命とはただひとつで存在するものではなく、連綿と続いてきたもの、そして続いていくもの」と語る監督自らが、16mmフィルム・カメラで撮影した。
見るものの五感をひらく緻密な音響設計は、故・佐藤真、青山真治らの作品を音づくりの面から支えてきた菊池信之が担当。
オーガニックで美しい音色を奏でるのは、アコースティックなオーケストラグループ、パスカルズを率いるロケット・マツ。
映画は、繊細な瞬間の撮影を受け入れた女性たちの圧倒的な美しさとともに、生命の神秘のありようを映し出している。

玄牝

監督・撮影・構成 : Naomi KAWASE 河瀨直美
奈良市生まれ。
大阪写真(現ビジュアルアーツ)専門学校映画科卒業。
劇場映画デビュー作「萌の朱雀」でカンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少受賞。
その後、「火垂(ほたる)」(2000年)「沙羅双樹」(2003年)「垂乳女⁄Tarachime」(2006年)などで映画祭での受賞を重ねる。
「殯の森」は2007年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。
2008年には初期ドキュメンタリー集DVDBOX「紡ぐ」をリリース、また新作「七夜待(ななよまち)」が公開された。
2010年より開催予定の「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクターを務める。
公式HP:http://www.kawasenaomi.com/

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